• PHOTO最終更新日2010年10月11日



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Title: はだしのままで。

島で、海の温泉にぷかぷか浮かんでいたら、隣にむきむきの外国の方と日本人のカップルが入ってきた、そのムキムキの彼と二、三言、言葉を交わすと、どうやら彼はチュニジア人だそうだ。

その彼がこの温泉は熱すぎるなんていうもんだから、日本人は熱い風呂に入るのが好きなんだ、むこうにある温泉はもっと熱いぜ!というと、なんで日本人は熱い風呂が好きなんだ?というもんで、日本人は我慢が好きなんだとかなんとか言いながら会話をしていたら、対岸の港の防波堤から、大学生がアクロバティックな飛びこみをして遊び始めた。

それをみた彼が、大胸筋をぴくぴくさせながら、子供みたいな顔で、おお!おもしろそう!おれもやりたい!と言い出した。

それを聞いた日本人の彼女は、

やめてよ。あんなあぶないこと。あなたに何かあったら私はどうすればいいの。あなたがいなくなったら私はどうしていいかわかんないよ、死んじゃうかも。

と半ば冗談交じりに言った。

そしたらかれが、一瞬すこしさみしそうな顔をして、なぜかそのあと、こちらに向かって満面の笑みでにやりと笑った。

そのしたり顔にちょっと腹が立ったけど、涼しい顔で、でもあれはたしかにおもしろそうだねといってやった。

その後よくよく話をきくと、彼はチュニジアの実業家で、基本世界各国を旅しているそうだ。彼女は彼と出会って一緒に世界中を旅してまわっているそうだ。

彼女は彼と出会って、今まで自分の世界がこんなに小さなものだったんだと気づいたんだとか、ようは彼はすごいのよ!私たちは幸せなのよ。というようなことをつらつらと話し始めた。

きっと新宿かなんかの飲み屋でこの話を聞いていたら、一刻もはやく家に帰りたいと思ったんだろうけど、でも夕暮れの海に浮かんでいると、そんな話もすごく新鮮に感じるから不思議だ。

一通り彼女の話を聞いて、さっき、あなたがいなくなったらどうしたらいいかわからないわ。といった彼女の言葉は、半ば冗談ではないんだろうと思った。

きっとこの人は自分で世界を切り開く力がないから、それを持っている彼に惹かれているんだろうな、だから彼がいなくなったらどうしていいかわかんなってしまうのかもしれないと思った。

一人で世界中を旅することはできないけど、でも旅をすることで、自分の世界が広がることを知ってしまったから、今、彼がいなくなって、急に仕事をしなきゃいけなくなったり、日本に戻らなきゃいけなくなったり、なによりも旅に出られなくなったら、本当に困るんだろうなと思った。

それは彼女にとってはある種の依存なのかもしれないし、このカップルのあり方がいいか悪いかはわかんない。いやむしろ自分はよくないと思うし、自分はこういう女の人を好きになることはないと思う。

でも自分がいることで、ここまで誰かの世界や人生を切り開いてしまう男というのもすごいなと思った。

夕日の中に浮かぶシルエットごしにこのカップルを見ていて、いいとか悪いとか、そういうんじゃなく、ただ単純に自分はやっぱり、世界は誰かに開かれるだけじゃなく、自分の手で切り開いていける自分でいたいと、なんかある種教訓めいたものを感じて、なんか哀愁にも似た気持ちをぶらさげて、はだしのままで夕暮れの道を民宿に帰ったのです。


POSTED @ 2010.08.11 | Comment (0) | Trackback (0)

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  • 自己紹介:1980年1月9日生まれ。どこからを趣味と呼んでいいのかは模索中。好奇心は旺盛。