Title: 続・続・夏におきた事件の話
僕らは遊園地を後にすると
皇居に向かうために意見を出し合った。
タクシーは使えない・・・足がつくと困る。
徒歩では時間がかかりすぎる。
さてどうする・・・・
みんな無い頭をひねり出していると
姿の見えなかったH君が向こうから
これでいこう!とママチャリに乗ってきたのだ。
それどうしたの!
みんなが一斉に聞く
よれよれと自転車をこぎながらH君は一言
落ちてた。
落ちてるわけがない。
人はそれをとめていると言うのだ。
でもなかなかいい案だ。
これなら足がつかないし
追われても逃げられる。
みんなおのおのその辺に止めてある自転車を探しだし
借りて来ることにした。あくまで借りてくるのだ。
必ず返すと心に決めて僕らは自転車に乗り込んだ。
どうしても2台ほど借りることができずに
あぶれたT兄弟は二人乗りをして
僕らはいざ皇居に向かってペダルをこぎ出した。
走りながら妙にパトカーの多いことが気がかりだったのだが
僕らは裏道にはいり意気揚々と皇居にむかって進んでいた。
実はこの時の僕らには知るよしもないことだが
一番はじめにF君の取った行動が確実に僕らを悲劇に向かわせていたのだ。
後に知ったことなのだが、あの時のタクシーの運転手
あの後、警察に駆け込み、被害届をだしていたのだ。
そして僕らの特徴を事細かに警察の方々に報告していたようだ。
管轄の富坂警察署はまだ僕らがその辺にいると踏んでパトロールを強化していたのだ。
その頃、そんなことを知るはずもない僕らはリンダリンダを熱唱中だった。
それからしばらくして裏道で手頃な自転車が落ちているのを発見。
しかし鍵がかかっている。
でもH君どうしてもその自転車が気に入ってしまい
向こうから鈍器のようなものを持ってきて鍵をたたき始めた。
みんなしかたなくその作業を見守った。
深夜の裏通りに鍵をたたく音だけが響く。
その時だ。
向こうからすごい勢いで向かってくる小さな光が2つ
それを一番はじめに発見したのは僕だった。
警察だ!
おもわず叫んだ。
さてここでおさらいをしておこう。
僕らはこの計画のはじめにひとつの取り決めをした。
何があっても仲間を見捨てない。
もし警察ざたになるようなことがあれば
必ず体を張ってお互いを守り
何があっても全員が無事で帰還すること。
そう僕らは固い絆で結ばれていたのだ。
僕が叫んだ瞬間だ。
僕らは蜘蛛の子を散らしたようにちりじりに走り出した。
あのスタートダッシュなら全員が五輪でメダルをねらえる。
小太りのY君はしゃがみ込んでからのスタートだったのだが一瞬でトップに躍り出た。
僕は先頭で逃げ出しそれを茨城出身のY君が追い越した。
鍵を壊していたH君・・・
こともあろうにその辺の自転車をなぎ倒して僕らに続いたのだ。
そしてそのなぎ倒した自転車はなんとその後ろにいた双子のT兄弟を直撃した!
鈍い音と高い悲鳴が響いた。
まさに地獄絵図だ。
僕は振り返ると自転車の直撃をうけた双子のT兄弟の弟の足は
自転車のタイヤの部分にはまっている。
僕らの方に逃げられなかったA君にF君、S君が
横道に走り込んでいるのが確認できた。
向こうからくる警察との距離はもう数メートル
現場には足をタイヤに挟まれたT兄弟の弟と
それを助けようとする兄・・・まさに兄弟愛・・・
警察の手がもうそこまで迫ろうとしたときに
弟の足がタイヤから抜けた!
そして二人は横道に走り込んだのだ。
これのどこに固い絆があったのだろう。
そこにあったのは兄弟愛だけだ。
あの取り決めをしたときに
警察なんかタックルで倒してやると
熱く意気込んでいた茨城出身のY君・・・
素晴らしいスタートダッシュだったよ。
俺ら絶対守りあおうな!と誰よりも目をきらきらさせてたH君
君の自転車はT君を直撃したよ。
T君に自転車が直撃したのを目の前で目の当たりにして
迷わず踵を返し横道に逃げ込んだA君とF君S君・・・
そして警察を発見したときにはもう半身になっていた自分・・・・
完璧なチームワークだ。
この逃走劇でみんなはちりじりになり
どこへ逃げたかもわからない。
とりあえず僕は裏路地から裏路地へ
ひたすら走り続けた。
もうどれくらい走ったかわからない。
こういうときには不思議と息がきれないんだということを初めて知った。
みんながどこにいるのかもわからず
頭の中でこれで捕まったら
いよいよ退学になるなぁなんてことを考えていた。
この後みんながそろうまでにまた一悶着あったのだが
ながくなるので合流したところまで話をとばす。
みんな見事に逃げ切り遊園地の進入ポイントで合流完了
ここは奥まった所にあり座り込んでいると周りからはみえない。
みんな息を切らしながらも
周りを警戒しながら座り込んだ。
みんな酷い顔だ。
疲労と焦燥と不安が入り乱れ
みんな見たこともないような顔をしている。
俗にいうマジ顔だ。
そのときだ。
T兄弟の兄が口を開く・・・・
弟がいない・・・・・
そこでみんな一人足りないのに気づく。
自転車が直撃したT兄弟の弟がいない。
いちばんはしゃいでてひたすら江頭の物まねをしていた
彼だけがいつまでたっても現れない。
30分ほどまっただろうかまだ現れない。
さすがにみんな疲労と眠気のピークだ・・・・
あいつはしゃぎすぎてたからな・・・・
H君が言った。
むちゃくちゃだ。
おまえの自転車が直撃したんだぞ・・・・
兄は頭をかかえている。
一言も口を開かない。
しかしいつまでもここにいてもしょうがない
一人を欠いた7人は一旦僕のうちに避難することにした。
家に向かうために警戒しながら大通りに出た瞬間
僕らの横をパトカーが通り過ぎた。
その瞬間全員が目を疑った。
なんと後部座席に脇を警官に固められたT弟が
泣きそうな顔で座っていたのだ・・・・
みんな声を出す間もなく
パトカーは警察署への坂を上がっていった。
・・・・・・・・・・・・・
みた?
みた。
あいつ白目むいてたぞ・・・
うそつけ!
みんなの顔は顔面蒼白だ。
ああ退学は間違いないな・・・・
みんなが口々に絶望を口にする。
あのときのT兄の顔はわすれられない・・・・
下を向きうなだれてひたすらに
もう終わりだもう終わりだ・・・・
とつぶやいている。
隣のF君
これは夢だ・・・これは夢だ
と自分に言い聞かせている。
みんな軽くあぶない状態だ・・・・
人間は理解しがたい現実に直面すると
それぞれの方法で自分を守ろうとする。
僕はブレーカーが落ちたみたいになにも考えられなかった。
ただ眠りたい・・・それだけだった。
しかしつぎに口を開いたH君の一言でみんなは愕然とした。
ああ腹減った・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
ここまでくると大物だ・・
その後みんなで家につくとさすがに疲労困憊
いつの間にかみんな寝息を立てはじめ
泥のように眠りに落ちた。
その先のことなんて考える余裕もなく
ただひたすら眠った。
明け方になりT兄が僕を起こした。
俺かえるわ・・・・
T兄のPHSには家からの着信が何十件もはいっている。
そのまま無言で家をでたT兄
そしてみんなが目を覚ますと、
朝の事情を説明し詳しい情報が入らぬまま
それぞれ自宅待機という形で僕らは解散した。
こうして「夜の遊園地計画」は幕を閉じたのだった
そう最悪の形で・・・・・
いつ学校から電話が入るか・・・・
いつうちに警察から電話がかかってくるのか・・・・・
おびえるなんてもんじゃない
このときの恐怖はいままで生きてきた中で
このときにしか体験したことがないほどのものだ。
人間は極度の恐怖を感じると全身に力が入らなくなる
グーができない・・・拳に全く力が入らないということをこの時に発見した。
できればそんな発見一生知らずに過ごしたかった・・・・・
長くなったのでこの後の成り行きは次回へ
>>つづく
POSTED @ 2005.06.28 |
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